「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」その1
『Chet Baker Sings/チェット・ベイカー』
怪しい魅力にあふれたベイカーのヴォーカル
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、ジャズ・スタンダードとして絶大な人気があり、ヴォーカル、インスト問わず多くの演奏が残されている。もちろん現在でも現役のスタンダードだ(特に2月ね)。そんな中で最も有名なヴァージョンのひとつであり、かつ実はかなり異色なのが、このチェット・ベイカーの「歌」。ベイカーはチャーリー・パーカーと共演するほどのビ・バッパーでもあるが、54年録音(一部56年)のこのアルバムでヴォーカリストとしても大絶賛されることになった。もともと「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の歌詞は、女性がヴァレンタインという男性に(イケメンでなくても好きよ、と)語りかけているという内容。それを男のベイカーがちょっとナヨナヨした声で、いわゆるフェイク(くずし)もほとんどなく歌っているものだから、異色と言えば異色。にもかかわらず、これが受けているのは何故だろう。こういうジャズっぽくないジャズ・ヴォーカルってあり? でもこの味わいが…。この面白さはなんと表現すればいいんだろう、と何度も聴くうちにどんどん深みにはまってしまうという名演。トランペットは吹かず、ストレートに1コーラス歌って終わり、という構成もちょっと不思議。
写真1:『Chet Baker Sings/チェット・ベイカー』(Pacific Jazz)