
率直に自分の音楽を作っている
ジャズ・ヴォーカリストnoonについては、これまでもアルバムやライヴ・リポートを紹介してきているから、その穏やかで心地よい歌声はもうすっかりおなじみですよね。彼女は2003年に『better than anything』でデビュー、今回の『Walk with thee in New Orleans』はクリスマス・ミニ・アルバムを入れると5枚目のアルバムになる。
音はといえば、全体の印象はこれまで同じシンプルに「和み感」を押し出したジャズ・サウンド。選曲もジャズだけじゃなく日本のポップスを入れたりと、アルバムの構成もこれまでの流れの上だ。何枚かアルバム出すと突然変わっちゃうジャズ・ヴォーカリストってけっこういるんだけど――今度はクラブ系やってみました、とかね――変わらないということは、やっぱり率直に自分の音楽を作ってきているということなのだな。
でもひとつ大きな違いがある。今回の録音は米国ニューオーリンズでの録音。もちろん現地のミュージシャンを起用しているんだけど、なんでニューオーリンズ? すぐには結びつかないんだけど、ちゃんと理由がある。
彼女がジャズに興味を持ったのは、中学生の時にTV-CMで聞いたハリー・コニックJr.の歌に魅せられたからなんだって。ハリー・コニックJr.はジャズ・ピアニストとしてデビューして、その後ヴォーカルにシフト、俳優としても活躍するポップ・スター。ハリーが生まれたのはニューオーリンズで、彼の音楽にはそれが色濃く出ている。そしてニューオーリンズはジャズの生まれた町。noonはこれまで何度もこの憧れの地に訪れ、現地のミュージシャンと親交を深めてきていたとのこと。今回のプロデューサーはトランペッターのリロイ・ジョーンズ。彼はハリーのバンドのリード・トランペッターでもある。これは noonが自身の音楽的ルーツを再発見する旅なんだな。「いかにも」のニューオーリンズ風のアレンジが目立つことは目立つけど、最初に書いたように全体の 印象はこれまでのnoonと大きく変わってはいない。自分の立ち位置がしっかりしているのだ。
では、1曲ずつ聴いていきましょう。

1曲目から3曲目まではジャズの古いスタンダードが続く。ロジャース&ハマースタインの名曲をここではボサ・ノヴァ調にアレンジ。シンプルなホーン・アンサンブルが歌声を引き立てる。
トランペットのメロディにクラリネットとトロンボーンがからむイントロ。のびやかで素直な歌声が入るとさわやかで軽やかな風が吹く。
トロンボーン、ヴァイオリンとチェロをフィーチャーしたバラード。noonはメロディをストレート歌う。名曲だなぁ。
この曲はいわゆる賛美歌。とはいえメロディはジャズ/ブルース調で、カントリーやゴスペルでよく歌われている曲。アレンジはいかにものニューオーリンズ・スタイルで、バックのミュージシャンにも大きくスポットが当たる。
「夢見る頃を過ぎても」と訳されるスタンダード。これまたニューオーリンズのセカンド・ライン風ビート。途中4ビートになったりと短い曲ながらも凝ったアレンジ。
これは日本では「ミス・ニューオーリンズ」と呼ばれる曲で、ルイ・アームストロングの歌が有名だ。タイトルは「ニューオーリンズを懐かしむこの気持ちがわかるかい?」という意味。「ミス」は動詞ね。ちなみにハリー・コニックJr.はアルバム『20』でドクター・ジョン(これまたニューオーリンズのブルース人)とデュエットの演奏を残している。ハリーそしてニューオーリンズへのリスペクトなのだ。
古いジャズ・スタンダード。ボサ・ノヴァ風のリズムで。
過度にブルージーにならないのがnoonのいいところ。さらりとした歌にホーン・アンサンブルがやさしく重なる。
これはニューオーリンズ風ではなく、アップテンポの4ビートでスウィングする。noonは元気いっぱいだ。
ジャンルと時代を超えて愛されるレオン・ラッセル作曲の有名曲ですね。弦とホーン・アンサブルが入っているけど、ぐっと控えめで、noonの歌声をじっくりと楽しめる。
日本では80年代のボーイズ・タウン・ギャングのディスコ風カヴァーがよく知られているけど、オリジナルは67年にヒットしたバラードで、そちらが元になっています。意外な選曲だけど、違和感はなく新鮮だ。
意外と言えばこちら。BEGINの曲をギターをバックにして日本語で歌います。コンサートのアンコールという感じで聴けるね。イントロとソロ、後半で歌にからむ味のあるトランペットがすばらしい。

アルバムジャケットからも"ニューオーリンズ"の雰囲気が漂っているね。 noonはいつ聴いても爽やかだね。さて、じゃあもう1回聴いてみようか
ミュージシャン:
noon (vo) リロイ・ジョーンズ (tp) クレイグ・クレイン (tb) アロンゾ・ボウエンズ (ts, cl) トッド・デューク (g) ポール・ロングストリース (p) ノブマサ・オザキ(b) バーナード・バンチー・ジョンソン (ds) マット・ローディ(vln) ヘレン・ジレット(cello)