
「満を持して」のセカンド・アルバム
ソフィー・ミルマンについては、これまで(日本盤発売の前から!)たびたび紹介しているので、Jazz Cafe常連さんはすでによくご存知ですね。昨年カナダでデビューするやいなや、日本を含む世界各国で軒並みチャート・イン。大きな注目を集めましたね。
さて、このたびリリースされた『メイク・サムワン・ハッピー』は彼女のセカンド・アルバム。ファーストが去年だから早いペースのリリースだな、と思った人、それは正しくありません。発売は去年でも制作は2004年(録音日のクレジットはない)だから、少なくとも3年は経っているのでした。これは実は重要なポイント。
私マスターはとても驚いたのです。「早いペースのリリースだな」と思っていたのは実は私のことで、プレイ・ボタンを押してすぐ、「あれっ?違った?」って思わずジャケットを見直してしまったものね。それぐらい彼女は大きく進歩していたのですよ。前のアルバムもよかったけど、こっちの方が断然よい。「趣味の歌から始まったラッキーなデビュー」だった前作から3年。デビューして勢いのある時期の3年の変化はとても大きい。世界でツアーを重ねて、そのバンドと作り上げた「満を持して」のセカンド・アルバムなのだから、前と同じはずがない。バンドの緊密感もとてもいい。
すでにこのアルバムを聴いた多くのリスナーも同じ思いなんじゃないかな。それを裏付けるように、カナダではリリースしてすぐにiTunesチャートでナンバー・ワンになったというニュースも入ってきた。
またまたいろんな歌があるけど...
前作は、「最初のアルバムだから好きな歌ばかり選んで歌った」ということだったけど、今回もバック・メンバーのオリジナルから古いスタンダードまで、さまざまだ。
基本的な編成はピアノ・トリオで、曲によってサックスやギターが彩りを添えている。ストレートな4ビート・スウィングからボサ・ノヴァ調までスタイルは幅広いが、根っこはどっぷりジャズだ。
曲について紹介すると、切ないメロディーが印象的な「ロケット・ラヴ」はスティーヴィー・ワンダーの1980年の曲。ミルマンが生まれる前の曲だから、スティーヴィー全盛期のヒット曲というよりも、彼女にとってはポップ・クラシックという感じなのかな。「マッチメイカー、マッチメイカー」は昨年の来日ステージでも歌っていたから、きっと好きな曲なのだろうけど、こちらは1960年代のミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』の曲。ジャズで有名な演奏はそれほど多くはないから、ヒット・ミュージカル曲としてピックアップしたのだろう。「ライク・サムワン・イン・ラヴ」「イット・マイト・アズ・ウェル・ビー・スプリング(春のごとく)」「セイヴ・ユア・ラヴ・フォー・ミー」「フィーヴァー」は、有名スタンダード。
「レスト」はバンドのサックス奏者のオリジナルで、ミルマンはフランス語で歌う。さらに日本盤にはその英語ヴァージョン「ステイ」も収録されている。と、幅の広さは前作を継承しているけど、ひとつのカラーがはっきりとある。前作にも増してどれも「ソフィー・ミルマンの歌」となっているところに成長を感じることができる。より個性が際立ってきたということだね。
でも、なんといっても気になるのがタイトル曲の「メイク・サムワン・ハッピー」。これは、これまでジューン・クリスティ、サラ・ヴォーン、ダイナ・ワシントン、カーメン・マクレエ、ナンシー・ウィルソンといったジャズ・ヴォーカルの大御所のみならず、ドリス・デイ、スティーヴィー・ワンダーなどポップ・フィールドのスターたちも歌ってきた名曲。これ聴いて、<勝負に出た>と思いましたね、マスターは。その結果は...、みなさん聴いてご判断を。
ジャズ・ヴォーカリストとしてデビューしても、キャリアを積むにつれて(人気が出てくると?)表現と活動の幅を広げるためか、ジャズから離れていってしまった例は多々あるけど、ミルマンは(ジャズ・ファンにとっては)うれしいことにますます「ジャズ・ヴォーカル」への道を進んでいる。「シャバダバ」スキャットはやらないけど、この適度なジャズ濃度は実に快適。濃過ぎず、薄過ぎずの、この中庸感覚って最近少なかったんじゃないかなあ。
これは酒が進むね。今日は早く閉店しちゃおうかな。