
「スタンダードをピアノ・トリオで」って普通過ぎる?
今回紹介するのは、ジャズ・グループらしからぬ名前のジャズ・ピアノ・トリオ「マサちゃんズ」。まずは下調べでメンバー紹介から。ピアノは佐山雅弘。ベースが小井(こい)政都志。ドラムスは大阪昌彦。いずれも名前に「マサ」がつくということで「マサちゃんズ」。トリオとして活動を始めたのは1990年で、佐山と小井がアメリカ留学から帰国した大坂を誘ってセッションしたのが発端という。 グループのサイトhttp://www.masachans.com/の紹介文によれば「いわゆるフツ~のピアノ・トリオ(=小サビの効いたアレンジでスタンダードをスイングさせる)」がコンセプト。不定期ながらもレギュラー・バンドとして活動を続け、正式に名前が付いたのは2001年になってから。02年にファースト・アルバムをリリース、最新作は4枚めのアルバムになる。
では、最新作『ウィ・ガット・リズム』を聴いてみましょう。今回はもう、最初から結論を言ってしまおう。この「フツ~」のピアノ・トリオは、いかに「フツ~」を装って「フツ~」でないことをするか、というのが最大の狙いと聴いた。
ピアノ・トリオという編成でスタンダードを演奏する、しかも「超」がつく有名曲ばかり。ここまでは普通すぎるほど普通だが、その先が違った。マサちゃんズ(以下、英字表記のM's)の演奏はどの曲も「小サビ」どころか、しっかりとしたアレンジが施されており、たぶんリハーサルもみっちりと行なっているのであろう「バンド」という印象がある。ほんとに普通のジャズのピアノ・トリオのライヴ――たとえばメロディとコードだけの譜面をその場でメンバーに渡して、簡単な打ち合わせで始めてしまうような――とは、明らかに違うスタイルがある。「曲はアドリブの素材」だけではなく、作品としての枠組みがしっかりとあるのだ。
今回はホールでのライヴということもあるからだろうが、<1.オール・ザ・シングス・ユー・アー[1939](ジェローム・カーン[1885~1945]作曲/佐山雅弘編曲)...>なんて書かれたプログラムが似合いそう。ジャズ・クラブとは異なる客層も意識しているのだろう、ピアノだけをみてもさまざまなスタイルがポンポン飛び出してくる。だからといってジャズ的なスリルや勢いが薄いということはまったくない。ジャズ・マニアも納得の充実感がある。
なお、超有名曲ばかりと書いたが、1曲だけそうでない曲がある。「レディース・イン・メルセデス」(スティーヴ・スワロウ作曲)だが、これは近年時たまとり上げられるニュー・スタンダードともいうべき名曲。音を聴くより前に、曲目リスト見て、うるさいジャズおやじ(私です)はフツ~ではない企み(?)を感じましたよ。
「タキシード着てオケとガーシュウィン」ってありがち?
そして、今回の注目は東京交響楽団との共演。15分を超える組曲が1曲収録されている。ジョージ・ガーシュウィンの曲をつないだ組曲にオケがからむという、いかにもホールでのコンサートという華やかな企画。
だが、「タキシード着たピアノ・トリオがオーケストラと共演、しかもネタがガーシュウィンなんて、テレビ番組でもありがちな一般向け企画。ジャズとしてはどうなの?」と行き過ぎた想像をするジャズ・ファン(これも私だ)にとっては、「ピアノ・トリオでスタンダード」よりもっと普通に思えてしまう。だが、M'sは見事に(よからぬ)予想を裏切ってくれた。鮮やかなアレンジのすばらしいジャズ演奏という正面攻撃で納得させてくれた。普通はこうはいかないね。
そしてもうひとつ。音のこと。これはホールでのレコーディング。いつもの聴き慣れたスタジオ収録のピアノ・トリオとは響きがぜんぜん違う。この広々とした音は新鮮だね。 ふだんクラシックを聴いている人にはこちらの方が自然な音なんだろうけど、一般的にジャズのピアノ・トリオというとピアノの中に頭を突っ込んだような「近い」録音がジャズの流儀だからね。
そして終盤は拍手がない演奏が3曲。これはコンサート終了後に録音されたもの。この演奏が収録されているということは、コンサートだけではなく、「ホールの音」で録りたかったということも目的のひとつと見ることができそうだ。無観客のホール録音はジャズで、しかもピアノ・トリオだとほとんどないんじゃないかな。ここも普通でないところ。
というわけで、M'sはまさに羊の皮をかぶった狼。形はフツ~だけど、その裏にはおもしろさがたっぷりと仕込まれている。音楽は外ヅラだけじゃわからないね。