
今回のnoonは全曲ポップス・カヴァー。この一言がすべてを表わしてしまっていると言っていいぐらい、狙いがはっきりしているアルバムです。もちろんジャズ・シンガーのnoonですから、アレンジはジャズなんだけど、そこはnoonですから軽やか、かつさわやか。そのスタイルは、JazzCafeのお客様はもうすっかりご存知ですよね。ジャズ・ヴォーカルにありがちな「夜のムード」(笑)はまったくありません。
ひとつ前のアルバム『Homecomming』は70年代フォーク・ソング集でした。そして今回はポップス集。「全曲が」ポップスというのがこのアルバムの特徴ですが、これまではたまたま「全曲」ではなかっただけで、これまでもnoonはたくさんのポップスを歌ってきています。最初のヒットもカーペンターズのカヴァーだったしね。だから、特別に新しいことにチャレンジしたのではなく、よりnoonらしさをより深めたアルバムということかな。
改めて考えてみると、ジャズ・シンガーがスタンダードを歌うのは当たり前けど、ポップスを歌うのはありそうでそう多くはない。いわゆるスタンダードとヒット・ポップスというのは似ているけど実はまるで違う。スタンダードと呼ばれる曲の多くは昔のヒット・ポップスだったりするけれど、多くの人がオリジナルを知らないで歌っているし、聴いている。逆に言えばオリジナルを歌ったシンガーの色が消えたものが、つまり楽曲の色だけが残ったものがスタンダードのスタンダードたるゆえんと思うんだけど、今回noonがとり上げているのは今のポップス。だからオリジナルのシンガーの色も香りも聴き手はみんなよく知っている。だからこれらを歌うということはビートルズとスティングとスティーヴィー・ワンダーと同じ土俵に立つということなんですね。
当然ながら「noon流ジャズ」というフィルターをかけるわけだけど、スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」はもともと4ビートのジャズ曲だし、「タイム・アフター・タイム」はマイルス・デイヴィスが(インストだけど)とり上げていて、ジャズ・ファンには「ジャズの曲」みたいなイメージもあったりする。だから個性を強力に、存分に発揮しないと「オリジナルの方がおもしろいじゃん」になってしまう。ヒット曲カヴァーは聴いてもらいやすいようだけど、実はたいへんなものなんだよね。
では結果はどうかというと、これは大成功。これまでもそうだったけど、バックのサウンドを極力シンプルにまとめ、歌をしっかり中心に持ってきている。そしてこの声は誰とも違うnoonだけのものとしっかりと主張している。全体のカラーも統一されていて、どこを切ってもnoonのサウンドになっているね。それにしてもこの幅広い選曲はどうやって決めたんだろう。時代も背景もさまざまだ。ミュージシャン・クレジットを見ると、4つのセッションがあるようだから、少しずつ気の向くままに録音していったものなのかもしれない。まあそこはどうあれ、この幅の広さ、にぎやかさもとても楽しい。まずnoon自身が楽しんで歌っているのがよく伝わってくる。そこが最大の魅力だ。
収録曲は「説明不要」と言えるほど有名な大ヒット曲ばかり。一番昔ので1965年、新しくて95年。これからスタンダードとして歌い継がれることになるに違いない名曲ばかり。まさに「ソングブック」のタイトルにふさわしい内容だ。
「説明不要」とはいえ、ちょっとだけ各曲をご紹介。
1.タイム・アフター・タイム(Time After Time)
同名のジャズ・スタンダード曲もありますが、これはシンディ・ローパーの84年のヒット曲。マイルス・デイヴィスのカヴァーもよく知られるところ。noonはジャジーにコードを付け変えてミディアム4ビートで歌います。
2.素顔のままで(Just The Way You Are)
ビリー・ジョエルの77年のヒット。今では原題の「Just The Way You Are」の方が知られているかも。オリジナルの間奏でのフィル・ウッズのサックス・ソロはジャズ・ファンには有名ですね。
3.ラヴ(Love)
ジョン・レノンです。70年のアルバムに収録されたのがオリジナルですが、90年代末に日本のテレビドラマで使われて、そこでもヒットしましたね。
4.愛はかげろうのように(I've Never Been To Me)
76年にシャーリーンがアメリカで発表した曲だけど、80年代に入ってから世界中でヒットして日本でもたくさんのアーティストがカヴァーしています。
5.スタンド・バイ・ユー(I'll Stand By You)
プリテンダーズの94年のヒット。美しいバラード。
6.ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ(You Are The Sunshine Of My Life)
スティーヴィー・ワンダーですね。73年の特大ヒット。当時の日本語タイトルは「サンシャイン」。noonはアタマをルバートで歌い、サビからインテンポの4ビートという、まったくのジャズにして歌います。
7.イングリッシュマン・イン・ニューヨーク(Englishman In New York)
スティングです。87年にリリースされた『ナッシング・ライク・ザ・サン』に収録されていましたが、この頃スティングはバンドにケニー・カークランド(ピアノ)やブランフォード・マルサリス(サックス)らジャズマンを多数起用し、かなりジャジーなサウンドを押し出していましたね。
8ユー・アー・ノット・アローン(You Are Not Alone)
マイケル・ジャクソンの95年ヒット。noonのこの演奏は先頃リリースされたマイケル・ジャクソンの曲をジャズでカヴァーしたオムニバス『アイ・ウォント・ユー・バック〜デディケイト・トゥ・ザ・キング・オブ・ポップ』(ビクターエンタテインメント)にも収録されています。
9.ユア・ソング(Your Song)
70年、エルトン・ジョンのヒット。今やほとんどスタンダードといってもいいぐらい。当時は「僕の歌は君の歌」という日本語題がついていた。noonはアタマからストレートな4ビートで歌う。意外なほどジャズになる歌なんだな。
10.デスペラード(Desperado)
イーグルスです。73年のヒットですが、リンダ・ロンシュタットやカーペンターズもカヴァーしていました。「ならず者」って日本語題があります。
11.イン・マイ・ライフ(In My Life)
ビートルズです。65年『ラバー・ソウル』がオリジナル。ビートルズってオリジナルの印象が強過ぎて、他の曲と並べると浮いてしまうようなところがありがちだけど、これはしっくりなじんでいるね。